062:オレンジ色の猫



 理由は知らないけど、母は猫が大嫌いだった。
 そんな母の思いを察してか
 実家の裏庭に野良猫がやってくる事は無かった。

 そいつが来るまでは。

 図体はでっかいけど、気の弱い、おとなしい
 オレンジ色の猫だった。
 ケンカに負けてか、
 ズダボロの姿で彼はやってきた。

 たぶん彼は「なけなしの勇気」を振り絞って
 裏庭の人影にエサをねだった。

 (どう考えても、家族の中でも
  最悪の人間にねだるあたり、
  彼の本能的な弱さを
  感じずにはいられないのだか・・・。)

 
 幸いなことに、
 向かい傷が皆無な彼だから、
 顔だけは割とキレイだった。
 声も情けなくって、
 ボロボロの姿と合い余って
 さしもの猫嫌いも・・・ほっとけなかった。

 茶碗に与えられたドッグフードを
 残さず平らげた彼は、
 傷が癒えても
 遂に裏庭から離れることは無かった。

 いや、正確には一度離れたんだけど。

 そして、・・・二度と戻らなかった。



 すっかり猫も馴染んだ裏庭には
 代替わりをしつつ
 反ノラや、ど〜みても他の家の子が
 好き勝手に出入りしてるけど
 
 居なくなるときは、いつも突然。

 彼等はそして、二度と姿を見せない。


 死に際を曝さないのは、
 野生の誇りなのでしょうか。

 あんなに弱くて、
 甘えん坊だった
 オレンジ色の猫でさえ、そうだったのだから・・・。